役小角の足跡と奇跡、そして教え
はじめに
役小角（えんのおづぬ）、または役行者（えんのぎょうじゃ）1。7～8世紀にかけて活躍したとされる、伝説的な修験者です。その生涯は謎に包まれ、数々の奇跡や伝説とともに語り継がれてきました。彼は山岳信仰と仏教、道教などを融合させ、厳しい修行によって悟りを開いたとされています。
本稿では、史料と伝承に基づき、役小角の足跡を辿りながら、彼が訪れた地域、もたらした奇跡、そして後世に伝えた教えや思想について探求していきます。さらに、現代においても役小角の足跡を辿ることができる旅のルートも提案します。
役小角の生涯
役小角は、舒明天皇6年（634年）に大和国葛上郡茅原郷（現在の奈良県御所市茅原）で生まれたと伝えられています 2。幼い頃から非凡な才能を示し、17歳で出家 3。葛城地方の有力な豪族の出身であった可能性も指摘されています 3。葛城山系で修行を積み重ね、32歳の時には葛城山に籠って厳しい修行に励んだと言われています 4。
ある時、北の方角に霊光を見、それを追って摂津国の箕面山の大滝に至ります 5。滝の上の竜穴（御壺）に入り、そこで龍樹菩薩から大いなる法を授けられて悟りを開いたと伝えられています 6。
その後、弟子の讒言により、文武天皇3年（699年）に伊豆大島へ流罪となります 5。しかし、富士明神の神託により、2年後の大宝元年（701年）1月に大赦を受け帰京しました 7。同年6月7日、老母を連れ天上ヶ岳へ登り、五色の雲に乗って母とともに天上へ昇ったとされています 8。また、一説には唐へ渡ったとも伝えられています 8。
役小角は、「役行者」と呼ばれる以外にも、「役優婆塞（えんのうばそく）」9 や「神変大菩薩（じんべんだいぼさつ）」9 と呼ばれることもあります。「役優婆塞」は、彼が在家仏教信者として修行したことを示す呼び名であり、「神変大菩薩」は、光格天皇から贈られた諡号です。
役小角がもたらした奇跡
役小角は、数々の奇跡を起こしたと伝えられています。その中には、以下のようなものがあります。
鬼神を使役する: 役小角は、鬼神を使役するほどの法力を持っていたとされています 1。古代日本の信仰において、鬼神は畏怖の対象であると同時に、力強い存在として認識されていました。役小角が鬼神を使役できたという伝説は、彼が自然や超自然的な力と深く関わっていたことを示唆しています 5。
空中飛行: 役小角は、空中を自由に飛行することができたという伝説があります。
病気平癒: 役小角は、人々の病気を治す力を持っていたとされています。
蔵王権現の出現: 金峯山に祀られる蔵王権現は、役小角が祈って出現させたと伝えられています 1。役小角は、吉野大峯での修行中に現れた蔵王権現の姿を、桜の木に彫り込んだと伝えられています。この逸話から、吉野山が桜の名所になったと言われています 10。
これらの奇跡は、役小角の超人的な能力を示すものとして、後世に語り継がれてきました。
役小角が開いた寺院と修行の場
役小角は、多くの寺院を開いたとされています。その中でも代表的なものとしては、以下の寺院が挙げられます。
吉祥草寺: 奈良県御所市にある寺院。役小角が白鳳時代に開いたと伝えられています 11。役小角の生誕地とされる茅原に位置し、五大明王を本尊としています。
岩湧寺: 大阪府河内長野市にある寺院。役小角が開いたとされる葛城二十八宿の一つです 12。
また、役小角は、様々な場所で修行を積んだとされています。
葛城山: 奈良県と大阪府の境にある山。役小角が十三歳から毎晩登って修行していたと伝えられています 4。葛城修験の根本道場であり、現在でも多くの修験者が修行に訪れます。
箕面山: 大阪府箕面市にある山。役小角が龍樹菩薩から法を授かった場所とされています 5。滝に打たれる修行「滝行」が行われています。
大峰山: 奈良県吉野郡にある山。修験道の聖地であり、役小角が開いたとされています 8。山上ヶ岳には役小角が感得したとされる蔵王権現が祀られています。
これらの山々は、現在でも修験道の修行の場として、多くの人々が訪れています。また、これらの場所は、役小角の伝説と結びつき、聖地、霊場として信仰を集めてきました。1850年には、智航上人が葛城修験の再興を図り、葛城二十八宿を踏破した記録である『葛嶺雑記』が編纂されました 13。
役小角が伝えた教え
役小角は、山岳信仰と仏教、道教などを融合させた独自の教えを説いたとされています。その教えは、以下のようなものでした。
自然との共生: 役小角は、大自然の中に身を置くことで、人間も自然の一部であることを体得できると説きました 8。山々を駆け巡り、厳しい自然の中で修行を積むことで、自然の力を体感し、その偉大さに畏敬の念を抱くことを重要視しました。
苦行: 厳しい修行を通して、心身を鍛錬し、悟りを開くことを説きました。山岳修行は、まさに苦行の連続です。険しい山道を歩き、滝に打たれ、断食をすることで、精神を研ぎ澄まし、悟りの境地へと至ると考えました。
慈悲: すべての人々に慈悲の心を持って接することを説きました。
自力更生: 役小角は、当時の社会制度や権力に依存せず、自らの力で道を切り開くことを重要視しました 5。
これらの教えは、修験道の基礎となり、後世に大きな影響を与えました。
役小角の思想
役小角の思想は、当時の社会状況と深く関わっていました。彼は、律令制下の村落諸制度の拘束から脱却し、自由を求める民衆の心を捉えました 5。
また、役小角は、土着の信仰と外来の宗教を融合させることで、新たな宗教を生み出しました。これは、日本の宗教史においても重要な出来事と言えるでしょう。役小角が葛城山と吉野の修験集団の統合を図ったことで、国家から危険視され、伊豆大島へ流されたという説もあります 7。
役小角の足跡を辿る旅
役小角の足跡を辿る旅は、古代日本の歴史と文化、そして自然に触れることができる貴重な体験となります。以下に、モデルルートと各地域の見どころを紹介します。
役小角の地域社会への貢献
役小角は、各地を巡りながら、修行だけでなく、地域の人々に様々な知識や技術を伝えていたとされています。その一つに、国栖（くず）と呼ばれる蔓草の根から澱粉を採る製葛技術があります 3。役小角は、この技術を習得し、訪れた先々で人々に伝授していたと考えられています。
結論
役小角は、日本の宗教史において重要な役割を果たした人物です。彼は、山岳信仰と仏教、道教などを融合させ、修験道の基礎を築きました。また、数々の奇跡や伝説とともに、後世の人々に多くの影響を与えてきました。
役小角の足跡を辿ることは、古代日本の歴史と文化、そして自然に触れることができる貴重な体験となります。彼は、厳しい修行を通して悟りを開くこと、自然と共生すること、そして人々に慈悲の心を持って接することの大切さを説きました。その教えは、現代社会においても、私たちに多くの示唆を与えてくれます。ぜひ、彼の足跡を辿り、その魅力に触れてみてください。
参考文献
湘北紀要 第 29 号 2008. 史実と伝説の間にみる役行者の魅力 立花 靖弘 5
同朋大学仏教学会. (2007). 役小角／役行者伝の変遷--奈良時代から平安時代前期における形成と展開 菱木 幹夫 14
医薬経済社. (2019). 役小角は実在したのか？ 出口王仁三郎 15
引用文献
1. 奈良の歴史散歩, 1月 11, 2025にアクセス、 https://www.pref.nara.jp/koho/kenmindayori/tayori/t2009/tayori2111/nara_sanpo2111.htm
2. 役小角 - Wikipedia, 1月 11, 2025にアクセス、 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BD%B9%E5%B0%8F%E8%A7%92
3. 郷土の神仙 役小角 - 吉野本葛の老舗・奈良・井上天極堂の公式サイト, 1月 11, 2025にアクセス、 https://www.kudzu.co.jp/cp-bin/wordpress5/blog/kudzunohanashi/%E9%83%B7%E5%9C%9F%E3%81%AE%E7%A5%9E%E4%BB%99%E3%80%80%E5%BD%B9%E5%B0%8F%E8%A7%92/
4. www.kudzu.co.jp, 1月 11, 2025にアクセス、 https://www.kudzu.co.jp/cp-bin/wordpress5/blog/kudzunohanashi/%E9%83%B7%E5%9C%9F%E3%81%AE%E7%A5%9E%E4%BB%99%E3%80%80%E5%BD%B9%E5%B0%8F%E8%A7%92/#:~:text=%E5%BD%B9%E5%B0%8F%E8%A7%92%E3%81%AF%E5%8D%81%E4%B8%89,%E3%81%A6%E4%BF%AE%E8%A1%8C%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%A8%E8%A8%80%E3%81%84%E5%87%BA%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82
5. 史実と伝説の間にみる役行者の魅力, 1月 11, 2025にアクセス、 https://shohoku.repo.nii.ac.jp/record/696/files/KJ00005656139.pdf
6. 役行者, 1月 11, 2025にアクセス、 https://minohkankou.net/minoh-kankou-mvg/minoh-story/enno.htm
7. 役行者と七面山 高橋俊隆, 1月 11, 2025にアクセス、 http://www.myoukakuji.com/html/telling/benkyonoto/index226.htm
8. 三井寺＞教義の紹介＞修験道＞役行者の生涯, 1月 11, 2025にアクセス、 http://www.shiga-miidera.or.jp/doctrine/syugendo/enno.htm
9. 開祖 役行者, 1月 11, 2025にアクセス、 http://www.ubasoku.jp/introduction/ennogyoja.htm
10. 役行者, 1月 11, 2025にアクセス、 http://sakuwa.com/sonota.html
11. 吉祥草寺（きっしょうそうじ） - 役行者霊蹟札所, 1月 11, 2025にアクセス、 http://www.ubasoku.jp/organization/36jisha/kisshousouji.htm
12. 役小角ゆかりのコース - 河内長野市観光ポータルサイト, 1月 11, 2025にアクセス、 https://kankou-kawachinagano.jp/course/detail.cgi?id=6
13. 葛城修験の基礎知識｜日本遺産 葛城修験 ～里人とともに守り伝える修験道はじまりの地～, 1月 11, 2025にアクセス、 https://katsuragisyugen-nihonisan.com/about/
14. 役小角伝考, 1月 11, 2025にアクセス、 https://doho.repo.nii.ac.jp/record/353/files/No.38-13_%E8%84%8A%E5%8F%A4.pdf
15. 昔人の物語（81） 役小角「修験道の開祖と言われるが」 | 医薬経済オンライン, 1月 11, 2025にアクセス、 https://iyakukeizai.com/beholder/article/1576
0 件のコメント:
コメントを投稿
こみつです。よろしく！